マイナス金利の導入を決定
日銀は2016年1月29日に、マイナス金利の導入を決定しました。
黒田総裁は2016 年1月 21 日の参議院決算委員会で「現時点ではマイナス金利を具体的に考えてはいない」と述べていたため、大きなサプライズとなりました。
マイナス金利導入後の日銀当座預金(3層構造)について
マイナス金利導入以前は、民間銀行が保有する日銀預金は準備預金金利が0%、それ以外(超過準備残高)の金利が+0.1%の2層構造でした。
マイナス金利の導入後、それぞれの民間銀行が保有する日銀預金はプラス金利(基礎残高、金利:+0.1)、ゼロ金利(マクロ加算残高、金利:0%)、マイナス金利(政策金利残高、金利:-0.1%)の3つに分けられました。
出所 日銀
3層構造の内訳は以下の通りです。
- プラス0.1%金利の対象:それぞれの金融機関における日銀預金(超過準備残高)の2015年1~12月における平均値(全体で220兆円)。
- ゼロ金利の対象:準備預金残高(2016年1月時点で9兆円)、自然体で預金が増えた分に対応する部分、日銀オペの利用に応じて付与される枠の部分、など
- マイナス0.1%金利の対象:上記以外(当初は日銀預金全体で10兆円を想定。その後、マイナス金利残高の想定値は5兆円に引き下げられた)
日銀当座預金が増加した場合、ゼロ金利かマイナス0.1%の金利が適用されます。
プラス0.1%が適用されるのは、過去(2015年1~12月)の平均預金残高なので、日銀預金が増えても、プラス0.1%が適用されることはないのです。
通常、経済活動に伴い銀行預金は増えるので(注)、その分はゼロ金利が適用されます。
そして通常の範囲以上に増えた分はマイナス金利が適用されます。
(注)例えばAさんが100万円をB銀行に預けたとします。銀行がそのうち80万円をC企業に貸しました。そうすると、B銀行が預かっているお金の残高は、100万円から180万円に増えるのです。C企業が機械の購入に80万円を使ったとしても、80万円は機械の販売会社の銀行預金に移動するだけなので、銀行預金は180万円のままです。つまり銀行が貸し出しをすると、銀行全体の預金量は増えるのです。
何故このタイミングでマイナス金利を導入したか
マイナス金利の導入を決定した背景について、黒田総裁は2016年3月7日の講演で次のように述べています。
- 日本経済は好調であり、このままいけば2%物価目標が達成できそうだ
- 一方で、中国をはじめとした新興国経済が悪化。また原油価格が下落。それらが日本の成長率、インフレ率に悪影響を及ぼし、2%物価目標の達成が危うくなる可能性も
- そこで新興国経済の減速から日本経済を守るために、追加緩和策(マイナス金利)を導入し、2%物価目標の達成が邪魔されないようにする
〇当時の日本経済は順調であった
出所 日銀
〇しかし原油価格は下落しているほか、中国経済も悪化しており、日本の2%物価目標達成に悪影響を及ぼす可能性があった
出所 日銀
マイナス金利政策の仕組みと効果
日銀はマイナス金利の仕組みと効果について、以下のように説明しています。
- 「量」、「質」に「マイナス金利」を加えた3つの次元で、追加緩和が可能なスキームとした。
- イールドカーブの起点を引き下げ、大規模な長期国債買入れとあわせて、金利全般により強い下押し圧力を加えていく。
- 3つの次元の緩和手段を駆使して、2%の早期実現を図る。
要は、利下げを行うことで、銀行の貸出利回りなど、様々な金利を一段と押し下げることを狙った、ということです。
貸出金利が下がれば、お金を借りて設備投資などを行う企業も増えるでしょうから、景気にとってプラスということです。
また個人にとっても、住宅ローン金利が下がります。住宅ローンの支払いが減った分、消費に回すことが出来るようになり、景気にとってプラス、というわけです。
まとめ
日銀は2016年1月29日に、マイナス金利の導入を決定しました。
それは海外経済の減速や原油価格の下落によって、2%物価目標の達成が危うくなることを未然に防止するためでした。
マイナス金利の導入、要は利下げ、は銀行の貸出金利を下げるので、企業が借り入れを行い、設備投資を行えば、景気にプラスです。
ただし実際は、マイナス金利が導入されても2%物価目標は達成できず、日銀は2016年9月の総括検証・YCCで方針転換を行うことになります。
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